秋思(天 133)

吟譜(PDF)

作者:許渾

(七九一~八五四年?)は晩唐の人。潤州(じゅんしゅう) 丹陽(江蘇省)の生れ。初唐の宰相許圉師(きょぎょし)の子孫。(因に許圉師の孫娘の一人は李白の妻となった) 八三二年進士及第。八四九年監察御史となり、更に睦州(浙江)、郢州(湖北)の刺史を歴任の後、病を得て故郷 潤州に隠棲して終った。晩年は仙人、隠者の世界にあこがれていたという。

語釈

*秋思・・・・・秋のものさびしい思い。
*琪樹・・・・・玉のように美しい木。
*西風・・・・・秋風をいう。
*枕簟・・・・・まくらと「たかむしろ」寝具をいう。簟はたかむしろ、竹で編んだむしろ
*楚雲湘水・・・楚は戦国時代の楚の地。今の湖北省、湖南省。洞庭湖がある。
*湘水・・・・は洞庭湖に注ぐ川の名、風光明媚で知られ、又多くの伝説がある。
*同遊・・・・いっしょに遊ぶ。又いっしょに遊んだ人。
*高歌・・・・声高らかにうたう。
*掩明鏡・・・鏡をおおうこと。明鏡は明らかな鏡。

通釈

色づいて玉のように美しい木々に西風がそよぎ、枕やたかむしろにも冷ややかな秋の気配が感じられるようになった。楚雲の湧く洞庭湖や湘水の辺でいっしょに遊んだ人のことを思い浮かべる。それにつれ、思わず歌の一ふしが声高らかに口をついて出たのだが うたいつつふと鏡に写った自分の姿を見て、つい昨日までの紅顔の美少年、今は はや白頭の老人になってしまっているのだ。

範吟

範吟 鈴木精成