壇の浦夜泊(天 172)

吟譜(PDF)

作者:木下 犀潭

(一八〇五~一八六七年) 熊本の人。名は業広(なりひろ)といい、字を子勤(しきん)と称し、犀潭または韓村(かんそん)と号す。佐藤一斎(さとういっさい)に学び、のち細川侯に仕え熊本藩の藩校、時習館に学び、門人に古荘嘉門(ふるしょうかもん)・竹添井井(たけぞえせいせい)など多くの逸材を出した。慶応三年没す。年六十三歳没。

語釈

*檀浦・・・・下関市の東端。
*篷窓・・・・船の窓のことをいう。
*五夜・・・・午前四時頃。
*魚笛・・・・漁師の吹く笛のこと。
*吹恨・・・・平家滅亡の恨みを吹く。
*養和陵・・・安徳天皇の御陵。

通釈

船の窓から外を見ると、月もはや落ちたのに、なかなか眠ることができない。今宵、壇の浦に船泊りして、まだ午前四時頃なのに、なま暖かい春風が波に吹きわたる。折りから、漁師の吹き鳴らす笛の音が、入水(じゅすい)した安徳天皇をはじめ平家一門の恨みをこめるかのように一声高く響いた。見渡せば、養和陵下あたりの海面は水煙が立ちこめて、そぞろ哀愁に満ちていた。

範吟

範吟 鈴木精成