独柳(天 187)

吟譜(PDF)

作者:杜牧

(八〇三~八五二年)・晩唐の詩人。字は牧之。京兆萬年(現・陝西省西安)の人。進士になった後、中書舍人となる。杜甫を「老杜」と呼び、杜牧を「小杜」ともいう。李商隠と共に味わい深い詩風で、歴史や風雅を詠ったことで有名である。

語釈

*独柳・・・ぽつんと一本だけあるヤナギ。(ひとりぼっちの女性)。
*含・・・・たちこめる。
*煙・・・・霞(かすみ)や靄(もや)。
*拂地・・・柳の枝が風にゆれて、地面を掃き払うようなさまを謂う
*久・・・・長い。
*佳人・・・美しい女性。忠義の臣。立派な男子。主君。
*悵望・・・恨めしげに見やる。また、悲しくながめる。ここは、前者の意。
*回・・・・かえす。まわす。めぐらす。また、めぐる。

通釈

豊かに葉が繁って靄のたちこめた一本の柳は、枝が風にゆられて、地面を掃き払うようなさまになっているのが長い。美しい女性は愛しい男性との別離を表す柳の枝を折るのに忍びなく。美女は恨めしげに愛しい人が去っていった遠くを見やって、か細い手を柳の枝から翻(ひるがえ)し、返した。

備考

この詩には表裏二様の意味がある。表の意は、ヤナギの根方で別れていった男性を女性が偲ぶさまであり、裏の意は(述べられたことはないようだが)作者・杜牧が年若い女性を愛おしんで、手をつけないでそのままにした、という意。

 

範吟

素読・範吟 鈴木精成