襄邑道中(続天 145)

吟譜(PDF)

作者:陳与義

(一〇九〇~一一三八年)中国、宋(そう)代の詩人。字(あざな)は去非(きょひ)。号は簡斎(かんさい)。洛陽(らくよう)(河南省)の人。「墨梅」の詩が徽宗(きそう)に賞されて詩名があがった。三十七歳のときに国都の陥落にあって各地を放浪、杭州(こうしゅう)にいた高宗に招かれて参知政事(副宰相)になった。平生から杜甫(とほ)を慕い、戦乱下の放浪の体験がいっそう杜甫への親近を増したと自ら述べている。素直な叙情、叙景の詩は唐詩に似た平明さがあり、感情を新鮮な感覚でとらえた景物に移入する叙情は、宋の中期における唐詩風なものへの回帰を示している。著に『簡斎詩集』三十巻がある。

語釈

*襄邑・・・現在の河南省にあった地名。
*楡堤・・・楡の木が立ち並んでいる川の堤防、の意。

通釈

川の両岸に咲く楡の花びらが飛び交い、私の乗っている船をも赤く染めるほどだ。風邪に吹かれつつ、およそ百里も続く堤防に咲く楡の並木の中を船は半日もかかってゆっくり進んでいく。 船に仰向けになって、ぼんやりと空の雲をみていると、雲が全く動いていないことに気付いた。なんと、雲もこの船中の私と一緒に、同じスピードで東に進んでいたのだった。