三樹の酒亭に遊ぶ(天 103)

吟譜(PDF)

作者:菊池溪琴

(一七九九~一八八一年)・名は保定(やすさだ)、字は士固(しこ)、孫助(まごすけ)と称し、溪琴はその号。後その号を海荘(かいそう) と改める。紀州(和歌山県)有田郡栖原村(ありだぐんすはらむら)の人。大窪詩佛(おおくぼしぶつ)に学び、詩を好くし、佐藤一齋(さとういっさい)、 賴山陽(らいさんよう)、広瀬旭荘(ひろせきょくそう)、安積艮齋(あさかごんさい)、梁川星巌(やながわせいがん)、 藤田東湖(ふじたとうこ)、佐久間象山(さくましょうざん)など一流の士と親交があった。名節を尊び、武芸を好み海防の 急務を建言した。明治十四年東京で没す。年八十三歳。著書に「秀餐桜集」「溪琴山房集」「海荘集」等がある。

語釈

*三樹酒亭・・・京都三本木の料亭。
*晴沙・・・・・晴れた砂。ここでは鴨川の砂。
*朦朧・・・・・おぼろに見えるさま。

通釈

春の一日親しい友と京都鴨川のほとり三本木の料亭で遊んだが、、窓から見る眺めは、靄(もや)が濃く立ちこめて山の姿も淡く鴨の河原に映っている。折りしも日は落ちて小雨が降りだした。おぼろに霞む東山三十六峰の寺々から打ち出す入りあいの鐘の音は一つ一つ ゆるやかに花の雲間から洩れきこえてくるのである。