舟由良港に到る(天 215)

吟譜(PDF)

作者:吉村 寅太郎

(一八三七~一八六三年) 幕末の志士、名を重郷(しげさと)といい通称寅太郎、黄庵(こうあん)と号す。土佐(高知) 高岡郡檮原(ゆずはら)村の庄屋太平(たへい)の長男として生まれ、幼少より俊敏、郷里では習うべき師なしーと 城下に出て勉学、十二歳で父に代わって庄屋(名主(なぬし)・村長(むらおさ))となり大いに実績をあげたという。 文久二年家を脱して京都に至り、平野国臣等と共に勤王の大義を唱え同志の決起をうながし、同志の密接な結合に奔走 した。竹市半平太等と謀(はか)って回天の策を廻らし、さらに文久三年天誅組の兵を挙げ敗死する。年二十七歳。

語釈

*由良港・・・淡路島の東岸にある港
*蒼茫・・・・青々として広いさま
*浪速城・・・大坂城
*篷窓・・・・とまでおおった舟の窓 篷は苫(とま)竹やかやなど を編んで舟をおおうもの
*杜鵑・・・・ほととぎす
*丹心・・・・まごころ
*帝京・・・・天子の都 ここでは京都をさす

通釈

ふりかえってみると、大坂城も遠くかすんではっきりとは見えない。折しも、とま舟の窓で血を吐くような ほととぎすの声を聞いた。そうでなくても悲痛無念の極(きわ)みであるのに。いったい今の世の中で、だれがわが胸中の真心を知ってくれるであろうか。(とても他人にはわかるまい)今夜もこの舟の中で見る夢は 、故郷のことではなく、天皇のおられる京のことなのである。