夜墨水を下る(天 243)

吟譜(PDF)

作者:服部南郭

(一六八三~一七五九年)(天和三年~宝暦九年)・江戸中期の儒者で漢詩人。名は元喬(もとたか)、字は子遷(しせん)、通称小右ヱ門(こうえもん)、南郭は号。 他に周雪(しゅうせつ)、観翁(かんおう)の画号がある。京都に生まれる。父の死により十四歳江戸に移り 荻生徂徠(おぎゅうそらい)に師事しのち塾を開いて子弟の教育に当たる。舟を浮かべて待乳山のほとりに遊ぶことを 好み、風流儒雅の道を開いた人といわれ、唐詩を研究しその普及を計った。「唐詩選国字解七巻」など著書も多い。 宝暦(ほうれき)九年没す。年七十七歳。

語釈

*墨水・・・・墨田川。
*金龍山・・・浅草寺(せんそうじ)の東北の墨田川のほとりにある待乳山(まつちやま)。
*扁舟・・・・小舟
*二州・・・・武蔵の国と下総の国(これにかかる橋が両国橋)

通釈

金龍山のほとり隅田川に月影が浮かんでいる。水の流れにつれて月光のくだけ散るさまは、 ちょうど江中に月が湧いて金色の龍が流れてゆくようである。私の乗る小舟は流れてとどまることもなく、天と水が一つになったような美しい眺めの中をすすみ、武蔵と下総(しもふさ) の境のあたりを両岸の秋風におくられて下ってゆくのである。当時の武蔵野ののどかな風景が詠じ出されている。

範吟

範吟 横山精真