社友小集(続天 113)

吟譜(PDF)

作者:福沢諭吉

(一八三五~一九〇一年)(天保五年~ 明治三十四年)。明治時代の思想家、教育家。中津藩の下級武士の家に生まれた。大阪で緒方洪庵の適塾に蘭学を学び、猛烈な勉強で二十二歳の時、最年少で塾頭となったが、その後、国際的に広く使用されているのはオランダ語ではなく英語であることを知り、英語の学習に切り替えた。一八六〇年(万延元年)の咸臨丸の米国への渡航、一八六二年(文久二年)の文久遣欧使節の派遣に同行し、欧米の社会や政治、文化を学び、帰国後は『西洋事情』などの著書を通じて欧米の進んだ社会制度や機械文明を広く紹介するとともに、幕府で翻訳などの仕事についた。王政復古後は新政府から再三出仕を求められたが応じず、士族もやめて平民となった。一八六八年(慶應四年)、慶應義塾をひらき、教育活動を本格的に進めた。また、『学問のすゝめ』や『文明論之概略』などの著作を通じて国民をひろく啓蒙した。

語釈

*社友・・・慶應義塾の門下生たち。慶應義塾では学生・教職員・卒業生を総称して社友
*当年・・・当時。

通釈

友たちとの集まりで、月日は矢のごとくに過ぎ去ってあれから十余年、今となっては誰が知っているだろう、当時の辛い状況を今夜、この部屋に集まった友はみなあの頃、弾丸飛び交い、砲煙上がる中で勉学に励んだ仲間なのだ

備考

困難な状況の中でも決して勉学を怠らなかったかつての教え子たちと、当時を懐かしむ詩ですが、ここから読みとれるのは単なる懐古の感情だけではありません。おそらく、この時集まった卒業生たちは近代化に邁進する当時の日本の最前線で大いに活躍していたはずです。自分がやってきたことが間違いなく実を結びつつあるという強い自負が感じられる詩です。