滁州西澗(続天 133)

吟譜(PDF)

作者:韋 応物

(七三七~804年頃?)、中唐の詩人。現・西安の人。玄宗の三衛郎(近衛兵)として仕えた。安禄山の乱で職を失ってから勉学に努め、地方官を歴任した。詩風は王維・孟浩然の流れをくみ、柳宗元とあわせて「王孟韋柳(おうもういりゅう)」と呼ばれている。

語釈

*滁州・・・現・安徽省の滁洲市、南京の西北50キロメートルのところにある。
*幽草・・・奥深い谷に生える草。
*澗邊・・・谷川のほとり。
*黄鸝・・・こうらいうぐい、日本のうぐいすよりも大形。
*春潮・・・春にさしてくる潮、春の増水。
*晩来・・・夕暮れになりはじまった。
*野渡・・・渡し場。

通釈

奥深い谷間の草が谷川の辺りに生えているのが愛らしく、茂った木の上にはウグイスがさえずっている。
やがて春になって水かさを増した谷川は、雨の中、夕方から流れが急になってきた。渡し場には人影もなく船だけが横たわっている。

鑑賞

第一句の「幽草」は、才能があるのに認められない作者自身の、第二句の「黄鸝」は、弁舌にたくみで高い位についている小人のたとえとなる。
そして作者は第三句で、春の増水に混乱した世相を暗示し、第四句に至って、この乱世を救う大人物が現れない嘆きを詠じて結ぶのである。