晁卿衡を哭す(続天 173)

吟譜(PDF)

作者:李白

(七〇一年~七六二年)・中国の盛唐の時代の詩人である。字は太白(たいはく)。号は青蓮居士。唐代のみならず中国詩歌史上において、同時代の杜甫とともに最高の存在とされる。奔放で変幻自在な詩風から、後世『詩仙』と称される。

語釈

*晁卿衡・・・晁衡君。晁衡とは、阿倍仲麻呂の漢名。
*征帆・・・・往く船。
*蓬壺・・・・東方海上にある神仙が住むと謂われる島。蓬莱。ここでは、日本の意で使っている。
*蒼梧・・・・伝説上の五帝の舜が葬られた場所。

通釈

日本の晁卿(安部仲麻呂)は唐の都長安に別れを告げて、一そうの去りゆく帆船は、神仙が住むという(蓬壺)島(日本)をめぐって行った。名月のように光り輝いていた君は、深緑色の大海原に沈んで帰らぬ人となった。白い雲と深い悲しみの色が蒼悟の空に満ちわたっている。

備考

李白は仲麻呂が帰国の途中遭難したと誤報が伝わり、亡くなったものと思い込み仲麻呂の死を悼み詩を作ったのがこの詩である。人の死を嘆く詩はあまり作らなかったとされる李白が仲麻呂を悼む詩を作ったというのは特別の親しみがあった表れだったことでしょう。

参考

(注・七〇一年(李白の生まれた年)の遣唐使が初めて日本という国号を使い、目的は律令国家としての国際舞台に知らしめることにあった。倭国伝(中国の旧唐書)によると倭国という意味がよくないので日本に代えたと記されている。当時は日本と書いて(ヤマト)と呼んでいたのではないかと考えられています。[街物語(敦煌・西安・北京)]より

 

範吟

範吟 鈴木精成