夏の夜(続天 188)

吟譜(PDF)

作者:江馬細香

(一七八七~一八六三年)(天明七年~文久元年)・江戸末期の女流詩人。文人画家。名は大保。号は湘夢。美濃大垣の人。蘭医江馬蘭齋の二女。美濃に来遊した頼山陽に漢詩文を学び、浦上春琴に画法を学ぶ。頼山陽は彼女に求婚するが、父、江馬蘭斎が許さなかったため、一生独身で過ごした。

語釈

*雨晴・・・・雨が上がって晴れる。
*庭上・・・・庭先。
*竹風・・・・竹の間を吹き抜ける風。
*新月・・・・ここでは、三日月のことになる。
*如眉・・・・マユのような。
*繊影・・・・細い月影。
*斜・・・・・斜めになっている。西空に沈もうとしている。
*深夜・・・・夜更け。真夜中。
*貪涼・・・・涼を採る。
*暗香・・・・秘やかに漂ってくる香り。
*和枕・・・・マクラに和す。鬢付け油の香りが染み込んだマクラとネムノキの花の匂いが一緒になってくる。
*合歓花・・・ネムノキの花。花は夕方に開く。マメ科の落葉高木。六~七月、淡紅色の小さな花を著ける。

通釈

雨上がりの庭先は、竹の間を吹き抜ける風が多く、葉擦れの音をたてている。三日月はマユのような細い形をして、西空に沈もうとしている。

夜が更けても、涼を採るために窓を閉める気がないので、窓を開けているので秘やかに漂ってくるネムノキの花の香りが、マクラの匂いに和して、ネムノキの花の匂いがする。

備考

裏の意は、マクラに合歓(男女の歓び)の匂いが残っており、幽かに漂ってくる、になる。頼山陽を偲んでいるのを暗に出しているのだろう。

範吟

範吟 磯田精信