偶成(天 69)

吟譜(PDF)

作者:木戸孝允

(一八三三~一八七七年)(天保四年~明治十年)・長州藩出身。幕末~明治はじめの志士・政治家。

長州藩を代表して薩長同盟を締結し、倒幕に向かう時代の流れを決定づけた。維新後は明治政府の最高実力者の一人として数々の改革を主導し、維新三傑のひとりと評される。漢詩については早くからその才能を発揮し、十代の頃すでに藩主の前で即興の詩を披露し褒章を受けたという。

名字はもともと「桂」だが(七歳のとき桂家の養子となった)、慶應二年に長州藩主毛利敬親から「木戸」の名字を賜った。小五郎は通称、孝允は諱である。

語釈

*才子・・・才能のある人物。秀才。
*恃才・・・才能をたのんでうぬぼれる。
*守愚・・・かしこぶらず、自分が愚かであることを謙虚に認める。
*他日・・・後日。将来。

通釈

「たまたま出来た詩」・秀才は自分の才能をたよりに努力を怠り、バカは自分がバカであることを自覚して努力する。だから若い時代は秀才であるよりバカであるほうがいい、見てみたまえ、将来、事業を成し遂げた後では秀才は秀才ではなく、バカはバカではなくなっているのを。

備考

韻字がすべて同一の字(愚)で、「才」と「愚」の二字がそれぞれ五回ずつ、「不」の字が三回出てくるという特殊な詩です。同時重出を避ける近体詩のルールからははずれていますが、この詩の場合は、内容上、重出が避けられないことが明らかでもあり、レトリックとして十分認められるでしょう。