花を惜しむ(天 206)

吟譜(PDF)

作者:福澤諭吉

(一八三四~一九〇一年)(天保五年~明治三十四年)、日本の武士。明治時代新思想の先覚者。大分中津藩の下級武士の子として大阪で生まれる。緒方洪庵の塾で蘭学を学ぶ。のち幕府の使節として 三度洋行。明治元年慶應義塾を創立。以後教育と著作活動に専念。啓蒙思想家として功績を残した。「西洋事情」「学問のすゝめ」 「文明論の概略」等は代表作。「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」は有名な言葉である。明治三十四年二月没す。年六十八歳。

語釈

*節物・・・・四季おりおりの景色 ここでは春の花の咲く季節のこと。
*怱怱・・・・日時のあわただしく過ぎゆくこと。
*霜戴人・・・髪に白毛の混じっている老人のこと

通釈

今まで歩んで来た後(あと)を振り返って見れば苦辛の連続であった。その間何回春がめぐって来たことだろうか。
四季おりおりの景色の移り変わりは早くひきとめる事も出来ない。ようやく花を賞(め)で楽しむ事の出来る身になったが、 すでに白髪の 老人になってしまった。