不識庵機山を撃つの図に題す(天 210)

吟譜(PDF)

作者:頼 山陽

(一七八〇~一八三二年)江戸後期の学者・漢詩人。広島県竹原市の人で、安芸藩儒者春水の長男として生まれた。少年時代から詩文を得意とし周囲を驚かせた。十八歳で江戸の昌平黌学問所で学んだ。ただ素行に常軌を逸脱することが多く、最初の結婚は長く続かず家族を悩ませた。二十一歳で京都に走ったため、脱藩の罪で四年間自邸に幽閉された。しかしこの間読書にふけり、のちの「日本外史」の案がなったといわれる。三十二歳ごろから京都に定住し、「山紫水明処」という塾を開き子弟の育成と学問に励んだ。子供に安政の大獄で処刑された三樹三郎がいる。享年五十三歳。

語釈

*粛粛・・・・・もの静かなさま。
*大牙・・・・・上杉軍の大将の旗印。
*擁・・・・・・抱きかかえる・持つ。
*遺恨・・・・・残念な。
*流星光底・・・流星の飛ぶ如く剣を抜いて切り下げた時の光
*長蛇・・・・・目指す大敵。ここでは信玄を指す。

通釈

(上杉謙信の軍は)鞭の音もたてないように静かに、夜に乗じて川を渡った。明け方、武田信玄方は、上杉の数千の大軍が大将の旗を立てて、突然面前に現れたのを見て、大いに驚いた。しかし、まことに残念なことには、この十数年来、一剣を磨きに磨いてきたのに、打ち下ろす刃(やいば)がキラッと光る一瞬のうちに、あの憎い信玄を打ちもらしてしまった。

範吟

範吟 横山岳精