武野の晴月(天 217)

吟譜(PDF)

作者:林羅山

(一五八三~一六五七年)江戸時代初期の儒者。名は信勝、字は子信(ししん)、羅山は号、剃髪して道春と称した。京都に生まれ、建仁寺(けんにんじ)に入り、儒仏を学んだ。十八歳のとき朱子学に志し、次(つい)で藤原惺窩(せいか)に師事する。一六〇五年徳川家康に謁し、重用され幕府の顧問となり、家綱に至る四代の将軍に仕えて、教学や諸制度に参画した。上野忍岡(しのぶがおか)に別荘を建て家塾を開き、のち昌平黌が建てられた。羅山は世襲の大学頭林家(だいがくのかみはやしけ)の始祖となった。著書に「本朝編年録」「寛永諸家系図伝」その他 多数ある。明暦三年一月二十三日没す。享年七十五歳

語釈

*武野・・・武蔵野の原
*武陵・・・湖南省にあった郡名で武州ともいった、武蔵の国に通ずるので江戸の意に用いられた。
*嬋娟・・・姿態の品がよいさま、あでやか
*快然・・・さっぱりしていて気持ちのよいさま
*輾破・・・車輪がめぐるしきのべること。ここでは月の輪がめぐること
*轍迹・・・車のわだちのあと。ここでは月の輪だちの光のあと 月影の移ったあと。

通釈

武蔵野は秋一色で月の光もうるわしい。広々とした平野は明るく晴れわたり気持ちがよい。月は青い空をまるで車輪がめぐる様に度(わた)ってゆくが、そのあとを残さない。見わたすかぎり草原は天と 連なり、見あげると一輪の月が高くかかっている。