山の夜(天 235)

吟譜(PDF)

作者:嵯峨天皇

(七八六~八四二年)第五十二代の天皇。平安朝初期の漢詩人で書家。御名(ぎょめい)は神野(かみの)、第五十代桓武(かんむ)天皇の第二皇子として降誕された。 幼時より聡明で読書を好み、博く経史に通じ、詩文に長ぜられ、諸芸にも精(くわ)しく、僧空海、橘逸勢(たちばなのはやなり) とともに三筆と称された。また仏道にも帰依(きえ)せられ東寺を空海に賜いて真言宗の根本道場とさせた。文化の興隆に 努められると共に諸式、諸官をも設けた。これによって平安朝の制度文物(法律、学問、芸術、宗教)は備わった。御歳(おんとし)二十四歳で 即位され御在位十四年、皇位を淳和(じゅんな)天皇に譲られ、承和(じょうわ)九年七月十五日、五十七歳で嵯峨院(今の大覚寺) で崩御された。御陵は嵯峨山上陵(さがのやまのえみささぎ 京都市右京区)。

語釈

*薜蘿・・・まさきのかずらとつたかずら。
*夢裏・・・ゆめのなか。
*山雞・・・やまどり
*曉天・・・夜明けの空。 明け方。
*暗濕・・・いつのまにかしめる。
*深溪・・・ふかいたにま。

通釈

今夜は久方ぶりに御所を出て、かずらが垂れ下がっている木深いところで、ぐっすり眠ったのである。 夢もまださめず、うとうとしているとき山鳥がしきりに鳴き夜明けをつげた。雲(くも・もや)が山居をつつんでいて知らぬまに衣服がしめっていた。そこで、なるほどこの家は深い谷川の近くにあるのだと、 わかったのである。