雨中の海棠(続天 17)

吟譜(PDF)

作者:尾池桐陽

(一七六五~一八三四年)(明和二年~天保五年)江戸時代中期・後期の讃岐丸亀藩医。名は槃、字は寛翁、
号して桐陽。讃岐の人。

語釈

*雨・・・・ここでは、春雨になる。
*濛濛・・・雨がけむってふり、薄暗いさま。
*露蘂・・・露に濡れた花のズイ。露おくズイ。
*煙英・・・雨にけむる花びら。けむれる花びら。
*漸・・・・だんだんと。ようやく。
*放・・・・(花が)咲く。
*想見・・・想ってみる。
*華淸・・・長安東郊にある離宮。湯泉があった。
*嬌姿・・・なまめかしい姿。
*無力・・・力無くぐったりとしている。嫋々としたさまをいう。

通釈

かぐわしい草花の咲いている三月の庭に、雨がけむるように降って薄暗く。露に濡れた花のズイと雨にけむる花弁が、だんだんと花を開かせた。楊貴妃が、華清池で浴を賜っての湯上がり時が聯想されて、艶やかでなまめかしい姿が、嫋々として春風の中に立っている。

備考

雨中海棠:雨の中のカイドウの花。雨に濡れているカイドウの花の可憐な姿を見て、唐の玄宗に愛された楊貴妃が、華清池で浴を賜って、初めて寵愛を賜った時の初々しさを聯想している。転句、結句を読んだ音調から感じることだが、日本語ベースで作られたものになろうか。

その観点で全てをみているだけであって、この作品は本当にすばらしいものであると思ってとりあげた。情景描写から始まるがそれだけに終わらず、潤いのある奥深い余韻のあるものとなっている。