甲戌の冬舟中に月を見て感有り(続天 78)

吟譜(PDF)

作者:中江藤樹

(一六〇八~一六四八年)(慶長十三年~慶安元年)・近江(滋賀県)の人。名は原。字は惟命(コレナガ)。藤樹と号す。江戸初期の儒学者。幼児より学問を好み、近江聖人と言われる。藤樹の号は藤の大樹の下で学問を講じたことから。

語釈

*甲戌・・・キノエ、イヌの年。
*念慮・・・考え、おもんばかり。
*一毫・・・一本の毛筋。
*酬応・・・応答、反応

通釈

ものの考え方は毛筋一本程の食い違いでもあると、そのくい違いに対する現実の結果は本来のものとは、千里もかけ離れたものとなってしまう。したがって人は心を静かに落ち着かせて、物事を正しく考察することを第一にする通い。丁度名月が波に沈まないように名月になった様に、名月のようなこころは、世のさまざまなわずらわしさに飲みこまれることはないのである。

参考

起承において「思慮が外れると、それは大変な誤りになる」ことを述べ転結において「名月にたとえ名月は良知良心に、波すなわち外部からの誘惑や、乱れにも決して沈まない」と述べている。

範吟

範吟 鈴木精成