江楼にて感を書す(続天 86)

吟譜(PDF)

作者:趙 嘏

(八一〇?・八一五?~八五六年?) 晩唐の頃の詩人。字は承祐(しょうゆう)。山陽(江蘇(こうそ)省)の人。

会昌(かいしょう)四年(八四四年)の進士。大中(たいちゅう)年間(八四七~八六〇)に渭南(いなん・ 陝西(せんせい)省)の尉(じょう・刑獄をつかさどる役人)に任ぜられた。当時の名士たちは趙かのことを評価したが、官は低く思うように昇進しない まま没したらしい。しかし詩人としての名は高かった。「長安晩秋」を詠じた詩中の句、「長笛一聲(ちょうてきいっせい)人樓(ひとろう)に倚(よ)る」は杜牧の激賞をうけたといわれる。 著書に「渭南集」と「編年詩」が残っている。

語釈

*江樓・・・ 川べの高殿
*渺然・・・はるかなさま・かすかにとおいさま
*翫・・・・なぐさみたのしんだ
*依稀・・・よくにているさま

通釈

ただ一人川のほとりの高楼に登れば、思い出は果てしなくよみがえってくる。月光は水のように清く澄(す)みわたり、川の水も空につらなって流れている。 思えば去年共に来てこの月をめでた人は、今はどこにいるのであろうか(もうこの世にはいないのだ)。

ただ風景だけは去年とそっくりで少しも変わってはいないのに。

範吟

素読・範吟 鈴木精成