江南の故人に寄す(続天 89)

吟譜(PDF)

作者:家鉉翁

(一二一三~一二九五年)、号は則堂。眉州(四川省眉山)の人。宋末の愛国詩人。官は端明殿学士、簽書枢密院事に至った。元軍が都の近郊に駐軍し、丞相の呉堅らが降伏勧告の文書に署名した時、彼は拒絶して署名しなかった。命を奉じて元に使いして北上し、燕京(北京)に拘留された。宋が滅んでから、元朝で役人になることを拒絶し、河中府に安置されること十九年、学問で生計を立てた。成宗が即位すると、彼はようやく解放されて南方に帰ることができ、ほどなくして故郷で没した。『則堂集』がある

語釈

*江南・・・ここでは、広く長江以南をさす。
*故人・・・旧友。
*向・・・・~で。「於」に同じ。
*銭塘・・・ここでは南宋の都の臨安(浙江省杭州)をさす。作者はかつて南宋の朝廷で役人となり、臨安の知府・浙江安撫使を兼任した。
*鵑・・・・ホトトギス。杜鵑。
*蜀郷・・・詩人の家郷は眉山であり、蜀中にある。

通釈

《江南の旧友たちに寄せて》かつては銭塘江のほとりに住み、ホトトギスの鳴き声を聞いては、故郷の蜀をなつかしんだものでした。
でも、私にはわかりません。今夜見る夢の中で、 故郷の蜀に帰るのか、それとも古都の銭塘江のほとりに帰るのか。

鑑賞

この詩は、詩人が燕京に拘留されていた時の作である。宋の遺臣の故国に対する愛着の深さは、わずか二十字の中に余す所なく表現されている。