偶成(天 67)

吟譜(PDF)

作者:朱 熹

(一一三〇~一二〇〇年)南宋の哲学者・詩人。 福建省建州の人。十八歳で進士に合格したというからよほど秀才である。役人生活は早めに切り上げ故郷で学問研究に没頭し、後に我が国の官学ともなった朱子学を完成させた。

その後復権し地方の知事などを歴任しながら多くの研究書を世に出した。「論語集注(しっちゅう)」「孟子集注」などは今でも中国思想研究者には必読の書である。後世の人は尊(たっと)んで孔子なみに朱子と尊称している。

語釈

*偶成・・・たまたまできた詩
*少年・・・若者 「少」は若い
*光陰・・・光と影 「光」は昼・「陰」は夜 時間
*池塘・・・池の堤
*階前・・・きざはしの前 「階(きざはし)」は堂に上る階段
*梧葉・・・青桐の葉

通釈

若者はアッという間に年をとってしまい、学問はなかなか完成しにくい。だから、少しの時間でも軽軽しく過ごしてはならない。池の堤の若草の上でまどろんだ春の日の夢がまだ覚めないうちに、階段の前の青桐(あおぎり)の葉には、もう秋風の音が聞かれるように、月日は速やかに過ぎ去ってしまうものである。

鑑賞

今も昔も人生は短く学問の道は遠い。前半二句は今でも親や教師が口にしそうな若者向きの学問のすすめです。後半二句の具体的な比喩(ひゆ)が説得力をもっています。若さをむさぼり楽しんでいるうちに秋風が吹いてきて人生は終わりに近づくのですよと諭(さと)しています。いわゆる勧学(かんがく)の詩として最も親しまれています。

範吟

範吟 鈴木精成