甲斐の客中(天 47)

吟譜(PDF)

作者:荻生徂徠

(一六六六~一七二八年)(寛文(かんぶん)6年~享保(きょうほう)十三年) 江戸中期の儒学者。名は双松(なべまつ)、通称惣右衛門、字は茂卿(もけい しげのり)、号は徂徠。姓は物部(もののべ 先祖)、 氏(うじ)は荻生(出所)。

父、方庵は幕府の侍医(じい)であった。柳沢吉保に仕え、 徳川綱吉に認められたが、綱吉死後一七〇九年官を辞し、日本橋に住み学問に専心した。晩年吉宗の試問(しもん)にあずかった。 太宰春臺、服部南郭等はその門弟である。享保(きょうほう)13年正月六十三歳で没した。

「弁道(べんどう)」「けん園随筆(けんえんずいひつ)」「論語徴(ろんごちょう)」「訳文筌蹄(やくぶんせんてい)」「政談」「太平策(さく)」 「南留別志(なるべし)」「弁名」等多くの著書を残している。

語釈

*甲陽・・・・ 甲斐の国(山梨県)。
*緑葡萄・・・みどり色をした葡萄。
*霜露・・・・しもとつゆ。
*三更・・・・子(ね)の刻(こく) 午後11時~午前1時 。
*客袍・・・・旅の装い(袍は綿いれ)。
*良宵・・・・よい夜 気持ちのよい晩。
*芙蓉・・・・富士山の雅称(ほめことば)。

通釈

甲斐の国のおいしい酒は、この地方の名産の緑色の葡萄から造られている。この葡萄酒を味わっているうちに、 時がたちいつの間にか夜の
十二時頃となり霜や露で旅衣(たびごろも)はすっかり湿ってしまった。こんなすばらしい夜はめったにないことだ。富士山の嶺を見上げると一輪の月が皎々と高く輝いている。 愉快この上もないことである