偶感(天 65)

吟譜(PDF)

作者:西郷南洲

(一八二七~一八七七年)(文政十年~明治十年)・薩摩藩士、吉之助といい、鹿児島城下、下加治屋町に生まれる。隆盛と称し、南洲は号である。藤田東湖(ふじたとうこ)に師事し水戸藩主徳川斉昭(とくがわなりあき)公に薦められる。

安政元年(1854) 鹿児島藩主島津斉彬(しまづなりあきら)の側近に抜擢。征韓の議、容れられず退官、帰郷、明治十年私学校党に擁せられて挙兵(西南戦争)敗れて、城山で自決。年五十一歳。

語釈

*辛酸・・・つらく苦しいこと。
*丈夫・・・りっぱな男子。
*玉碎・・・玉となってくだけ散る。 りっぱな死に方をいう。
*甎全・・・「甎全」は瓦全と同じ、 かわらのようにつまらないものになって生きながらえること。  「甎」は しきがわら。
*遺法・・・子孫に残す家訓。
*美田・・・良田、 りっぱな財産にたとえる。

通釈

人間は、つらく苦しいことを何度も経験してはじめて志が堅固になるものである。立派な男というものは、たとえ玉となってくだけ散るようなことになっても、かわらとなって生きながらえるのを恥とするものである。

わが家には先祖から伝わった子孫の守るべき家訓があるが、世間の人は知っているであろうか。それは、子孫のために田地など財産を買い残すことはしないということである。

独立自営千辛万苦に耐えさせるというのが、わが家に残し継がれてきた家訓である。

範吟

範吟 鈴木精成