剣門の道中にて微雨に遇う(天 76)

吟譜(PDF)

作者:陸 游

(一一二五~一二〇九年)・南宋の詩人。越州山陰(浙江省紹興市)の人。字は務観(むかん)。号は放翁(ほうおう)。子供の時から父祖以来の愛国的抗戦思想を植え付けられ、金に対する徹底抗戦を叫び、憂国の詩人と呼ばれた。南宋は金に屈辱的な平和を得て(陸游十七歳)、死ぬ時まで領土の回復を切望していたが死後元に滅ぼされる。范成大、楊万里とともに南宋三大詩人の一人、作品数はおよそ一万首、空前の多作家。酒を酌んでは怒濤の如く詩を吐きだしたとある(王魚洋「陸放翁の心太平菴硯の歌」)。

語釈

*劍門・・・剣門関。山の名。
*道中・・・旅路で。
*衣上・・・着物の上の。
*征塵・・・旅路で付くよごれ
*雜酒・・・いろいろな材料が混ざった下級の酒。
*消魂・・・うっとりすること。落胆すること。魂を奪われること。
*細雨・・・しとしとと降る雨。

通釈

『転勤で劍門を通化している時、微雨に出逢う』・衣服の上には、旅塵と旅路で飲んだ安物の酒をこぼしたシミのあとがある。遠くまでのこの旅路では、魂を奪われることことのない処はは無く、この身はまさに詩人と言うべき境地に達しているか、どうか。しとしとと降る雨の中、(古の詩人のように)驢馬に乗って劍門の山道に入っていく。