江南の春(天 80)

吟譜(PDF)

作者:杜 牧

(八〇三~八五二年)晩唐の政治家・詩人。京兆(けいちょう=今の西安)の名門の家に生まれ、若いころから詩文が得意で、二十三歳の時「阿房宮の賦」(あぼうきゅうのふ)を作り、その天才ぶりが世に知れ渡った。

二十六歳で進士となり、江蘇省の楊州に赴任した時代には名作を多く残している。杜牧は美男子で歌舞を好み色好みで通っていたから、艶っぽい詩が多いけれど、半面その人柄は剛直で正義感に富み、大胆に天下国家を論じたりもした。三十三歳の時、中央政府の役人になるが、弟が眼病を患っていたので、弟思いの杜牧は自ら報酬の高い地方官を願い出て面倒を見た話はまた別の一面を語っている

語釈

*江南春望・・・揚子江下流の江南地方の春の眺め。
*山郭・・・・・山あいの村
*酒旗風・・・・酒屋の目印(めじるし)の旗が風になびく
*南朝・・・・・三世紀から六世紀にかけて今の南京に都を置いた呉・東晋・宋・斉・梁・陳の六つの王朝をいう 仏教が盛んだった。
*多少・・・・・多くの。
*煙雨・・・・・霧雨(きりさめ)

通釈

江南地方には春が千里四方に満ちていて、いたる所で鶯(うぐいす)が鳴き、緑の若葉は赤い花に映りあってまことに美しい。水辺の村にも山あいの村にも、酒屋の旗が春風(はるかぜ)にひらめいているのが見える。思えばあの南朝のころには仏教が盛んで、この地にも四八〇もの寺院が建てられていたというが、今もなお多くの楼台がその名残(なごり)をとどめ、煙るような霧雨の中に聳(そび)え立っているのがあちらこちらに見える。

範吟

範吟 横山岳精

範吟 磯田精信

 

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