江月(天 82)

吟譜(PDF)

作者:亀田鵬斎

(一八二六~一七五二年)(文政九年~宝暦二年)・江戸中・後期の儒学者。折衷学派。名は長興、字は穉竜、通称文左衛門、号は鵬斎,善身堂。日本橋横山町の鼈甲商長門屋の番頭万右衛門の子として江戸の神田に生まれた。十四歳で折衷学者井上金峨に入門し、安永の初めごろ私塾を開き徐々に名声を得たが、寛政異学の禁(一七九〇)で「異学」の烙印を押され、「五鬼」のひとりに数えられて一時は門人が激滅し貧窮にあえいだ。しかしその後は書と詩文で再び名声を得たが、酒にひたる生活を送った。山本北山とは同年で親密であった。門人に東条一堂などがいる。

著書は『大学私衡』『善身堂一家言』『黍稷稲粱弁』『侯鯖一臠』『鵬斎先生文鈔』『善身堂詩鈔』など多数。生涯にわたってしばしば転居を繰り返し、駿河台、馬喰町、下谷金杉などに住んだが、最後は下谷根岸の家で没し、浅草今戸の称福寺に葬られた。

語釈

*満天・・・・空全体。
*一色・・・・一つの色。
*江天・・・・江と天、江天一色とは江の水色と天空の色とが同一に見えるさま。
*半夜・・・・一夜を二分したその一方。よなか。
*粛瑟・・・・(しょうしつ)しいんとして寒いさま。
*荻蘆洲・・・(てきろしゅう)荻や蘆の繁っている州。

通釈

月の光は川面に満ちて空は澄み、秋の気は天に満ちる。空の色と水の色との見分けがつかず、川の水が遠く流れてまるで天に接しているかのようだ。夜中に酒の酔いもさめて、ふと気づくと人一人見当たらず、ただ霜を帯びた風が寂しく荻や蘆の繁っている州を吹いているのみ。