獄中の作(天 87)

吟譜(PDF)

作者:橋本左内

(一八三四~一八五九年)名は綱紀(つなのり)。字は伯綱(みちつな)、通称左内。宋の岳飛の人となりを景仰(けいぎょう)して景岳 と号した。越前藩医長綱(おさつな)の長子として天保五年三月に生まれ、医を緒方洪庵に学ぶ。一橋慶喜(ひとつばし よしのぶ)公を立てて将軍となし攘夷を断行しようと奔走したがならず、安政五年捕らえられ、翌六年十月斬刑に処された。 年二十六歳。正四位を贈られる。

語釈

*平昔・・・・・むかし 以前。
*天祥大節・・・宋(そう)末期の忠臣文天祥(ぶんてんしょう)の気高い正道をふみ 行ってきたこと
*心折・・・・・心服・感服と同じ・心から敬い従うこと。
*土室・・・・・・地下につくった室 ・地下室 ここでは獄舎(ごくしゃ)

通釈

自分のすごした二十六年の月日は、夢の内に過ぎ去って行ったが、これまでを振りかえってみると、感慨(かんがい) は計りしれない程、深く強いものだった。つねづね自分は、天文祥が節操(せっそう)をまもり正道を行い続けたことに心酔(しんすい)しているのだが、今、幕府に捕らえられて、獄中にある身になってみれば、せめて文天祥が獄中で詠(よ)んだという正気の歌を吟じて、彼の 心境をしのぶのである。