鍾山即事(天 136)

吟譜(PDF)

作者:王安石

(一〇二一~一〇八六年)・北宋の詩人。撫州臨川(江西省臨川県)の人。字は介甫(かいほ)、号は半山(はんざん)。政治家であり、学者としても名をなす。二十二歳の時、科挙の試験に合格し、後に宰相にまでなった。政治では、国家財政を立て直す数々の新法を打ち出した。しかし改革が急進的過ぎて、既得権を守ろうとする、いわゆる抵抗勢力の猛反発にあって成功しなかった。晩年、職を辞して後、現在の江蘇省南京郊外にある鐘山に隠棲。絶句は北宋随一といわれ、また散文でも唐宋八大家の一人に数えられる。

唐宋八大家 唐宋二代の八人の大文学者 韓愈(かんゆ)、柳宋元(りゅうそうげん)(以上、唐)。欧陽修(おうようしゅう) 、蘇洵(そじゅん)、蘇軾(そしき)、蘇轍(そてつ)、曽鞏(そうきょう)、王安石(以上、宋)。

語釈

*鍾山・・・金陵(今の南京)の東北にある名山で一名 紫金山ともいう
*澗水・・・たにがわの水 春のやわらかさ
*茅簷・・・かやぶきの家の軒

通釈

谷川の水は音もなく静かに竹の林の間をめぐって流れている。 その竹の林の西には花や草が春の柔らかさをあらわしのどかである。
かやぶきの軒下で鍾山に向かいあって一日中座っていると、鳥のなき声も聞えず、山はいよいよ静かである。

備考

この詩は鍾山隠棲中の一〇八五年の作で隠逸(いんいつ)生活の高尚な情趣を詠じている。しいんと静まり返る奥深い鐘山の初春を詠ったもの。