出郷の作(天 140)

吟譜(PDF)

作者:佐野竹之助

(一八三八~一八六〇)名は光明(みつあきら)。天保九年の生まれ、水戸藩士兵左衛門光誠(みつしげ)の長子。 資性豪宕(ごうとう)、幼より季節を愛し武を好み(特に居合術)、砲術を究めた。万延元年三月三日十七人の 同志と井伊大老を桜田門外に襲撃しこれを斃(たお)し、同日重傷の為死去。年二十三。正五位を贈られる。

語釈

*決然・・・決心したさま・思い切ったさま
*天涯・・・空のかぎり・遠くへへだたった土地・異郷
*慇懃・・・ねんごろなこと・ていねい・親しいまじわり

通釈

自分は、故郷水戸を去る決心もでき、今異郷に赴(おもむ)こうとしている。この生別はすなわち死別なのだ。しかし年端(としは)もいかぬ弟や妹は、兄の心も知らず、袖をひいて、帰りはいつなのかと問うのが哀(あわ)れである。

備考

この詩は竹之助が井伊大老を斃(たお)さんと水戸を出発する時の断腸の思いを賦したものである。なお、 竹之助の襦袢(じゅばん)の衿(えり)に次の辞世の二首が記されていたという。

*桜田の花と屍(かばね)は散らせども  なにたゆむべき大和魂
*敷島の錦の御旗もちささげ  すめら御軍(いくさ)の魁やせむ

範吟

素読・範吟 鈴木精成