松島(天 229)

吟譜(PDF)

作者:岩溪裳川

(一八五二~一九四三年)(嘉永五年~昭和十八年)・岩渓晋(ススム)・明治・大正時代の漢詩人。但馬(兵庫県福知山)の人。儒者岩垣月洲の門人であった岩渓達堂の子。名は普、字を士譲、裳川はその号。別号を半風痩仙と号す。幼時、父に素読を学ぶ。明治六年上京、森春涛の門に入る。本田種竹・森槐南と親交があり、晩年、国分青厓とともに詩壇の双璧と称された。春涛没後、關澤霞庵の「夢草吟社」に出入し詩人としての地歩を確実にした。槐南没後は国分青崖と並んで詩壇の大御所であった。資性恬澹にして超脱、気骨ありといわれる。杜甫・白楽天を宗とした。二松学舎の教授、芸文社の顧問を兼ねた。弟子に土屋竹雨がいる。昭和十八年三月、九十二歳で没した。著に『裳川自選稿』5冊などがある。「山陰老書生裳川晉」の下に、白文の「岩溪晉印」、朱文の「裳川」の落款印が押されている。

語釈

*松島・・・・宮城県宮城郡、仙台湾の支湾一帯の景勝地。二百六十余の小島があり、日本三景の一つ。
*水寺・・・・瑞巌寺のこと。
*茫々・・・・広く遠いさま。
*驚濤・・・・さかまく大波。怒涛。
*盪詩胸・・・詩情を激しく起こす。「盪 」 は揺り動かす。
*窟・・・・・いわや。岩穴。竜の住む岩あな。
*金燈・・・・金色に輝く灯り。海中の鬼火で竜が捧げるという。
*余醒・・・・あとに残るなまぐさい臭気。竜の体臭のなごり。
*乱松・・・・入り混じっている松。秩序なく生えている松。

通釈

海辺の寺 (瑞巌寺) の夕暮れの鐘が広々と果てしない海上に響きわたり、さかまく万丈の大波は、わが詩情を激しく揺り動かす。海竜もいわやに帰って、かがやく竜灯も消えてしまい、真っ暗な夕闇を、雨がなまぐさい竜の臭いのごりを送って、島々の入り乱れた松の木立に吹き込んでいる。