客舎の壁に題す(続天 31)

吟譜(PDF)

作者:雲井龍雄

(一八四四~一八七一年)(天保十五年~明治三年)幕末の詩人。米沢藩士。本名は小島守善。通称は龍三郎。雲井龍雄は変名。二十二歳の時、出府し安井息軒に学んだ。維新の際、薩長の横暴を批判して後、奥羽連合提唱するも思い通りにならず、謹慎を命じられた。のち挙兵を企てたが発覚し謀反の罪を問われ、小塚原で処刑された。時に二十七歳の若さであった。

語釈

*題壁・・・・・・・・壁に詩を書き附ける。
*客舍・・・・・・・・旅館。旅社。
*斯の志・・・・・・・奥羽連合をなしとげようとする志(こころざし)。
*豈躬をおもわん・・・どうしてじぶんの身の安全など思うだろうか。
*靑山・・・・・・・・墓所とすべき山。また、木々のしげった山。
*冷笑・・・・・・・・さげすみ笑う。せせらわらう。

通釈

横暴な薩長打倒の為に、奥羽連合を結成しようとする自分の信念は堅く(今はただ自分のの信念を貫徹しようとするだけで)身の安全、生死等顧みるこもちはない。どこで果てようとすこしも悔いることなく草むす屍になろうとも、碧海の底で屍になろうとも既に覚悟は出来ているのである。壮途を祝って祝杯を挙げ、腰の宝刀をまさぐれば、早くも敵の肝胆を砕いたきぶんになり、微苦笑(びくしょう)を禁じ得ない。さあ、これより馬を駆(はし)らせて「関東に下り、薩長の野望を砕こう。

鑑賞

雲井龍雄の薩長に対する考え方には徹底したものがあり、理由の如何をも問わず許さぬ態度であった。そこで薩長を倒すべく計った奥羽連合の為に活躍しようとする意志も堅固であった。その気持ちが起句、承句によく表れている。

 

範吟

素読・範吟 鈴木精成