偶成(続天 59)

吟譜(PDF)

作者:横井 小楠

(一八〇九~一八六九年)熊本の人。名は「時存」(ときあり)。字は子操。号小楠。通称平四郎。江戸昌平黌に学び、天保十一年熊本に私塾小楠堂を開く。嘉永四年(一八五一)、諸国を遊歴。開国通商、殖産興業を主張。福井藩松平春嶽の政治顧問として活躍。幕政にも参画した。雄藩連合を策し、攘夷派の一掃を図って失敗し、刺客を逃れて帰国、抵抗せず逃れたことで士籍を剥奪され閑居を命じられたが、閑居中も倒幕派に影響をあたえ、維新後登用され参議となったが、攘夷過激派に路上で殺された。六十歳。長岡是容、元田永孚、橋本佐内、坂本竜馬ら親交があった。

語釈

*東海波濤・・・奥州二十五藩を盟主として薩長軍と戦うこと。
*北越雪・・・・越後長岡牧野藩を中心として、七藩が奥州軍と同盟し、薩長軍と戦うこと。
*看光景・・・・形勢ををみる。
*觥・・・・・・杯。 牛の角でつくったさかづき。
*風塵客・・・・動乱の中に生きてきた自分。
*帰臥・・・・・帰省して休む。
*故山・・・・・故郷。

通釈

維新の東北、北越戦争がおころうとするとき、故郷熊本に帰り、ひっそり暮らしている心境を詠じた作。
東北や北陸方面では、戦争がはじまるそうな気配であるが、自分はこの動乱に十年も奔走したのだから、いまは、故郷に帰り、世俗を洗い 流し、杯をかたむけたり、雨の音をきいたりしながら、ひっそり暮らしているのである。

範吟

範吟 鈴木精成