百忍の詩(天 209)

吟譜(PDF)

作者:中江藤樹

(一六〇八~一六四八年)江戸初期の学者。諱は原、字は惟命、通称与右衛門、もく軒(もくは口篇に黒)又は顧軒と号した。藤樹の名は、その家に藤の大樹があり、その下で学を講じたので門人たちが藤樹先生と呼ぶようになったという。しかし、三十二歳の時に「藤樹規」と題する学規作り掲げるという記録からも自らも藤樹と称していた。藤樹は慶長十三年(一六〇八年)近江国(滋賀県)高島郡小川村に生まれた。七歳の時高島城主加藤光泰の家臣、祖父徳左衛門吉長の養子となり、光泰の子貞泰の移封に従い、米子、伊予(愛媛)大洲と転じた。その間、学問・武術に励んだ。十八8歳の時父徳右衛門吉次を失い、母を大洲に迎えようとしてが、母は婦人の身で他国へ移ることを希望しなかった。二十七歳の時、母への孝養を理由に致仕を願い出るが許されず、脱藩して故郷小川村に帰った。故郷では、母の世話をする傍ら学問に励み、門人に学を講じて、近江聖人と称されるに至った。慶安元年(一六四八)四十一歳で病没した。

語釈

*満腔・・・いっぱいに満ちる。
*熙熙・・・広々としていること

通釈

詩文説明

人間の感情は七種からなっており、この感情が直接表に現れると、思わぬことが起こるものである。まず、一度これを忍べばそれらの感情はかなり穏やかに和らぐものである。さらに修行を積み、再び忍ぶ事が出来るようになると、人生の五つの幸福がすべて自分の周囲に集まるようになる。このように修行を積み重ね、百度も忍ぶ事が出来るようになると、心はいつも春のような暖かさに包まれ、広々とした宇宙に起こるすべての事が楽しく受け入れられるようになる。これこそ真の境地といえよう。

百忍の詩
忍耐を重ねていくと遂には清々しい春花の咲き乱れる如く常に心身豊かになり宇宙の哲理を悟り真の境地に達する事が出来る。

※七情とは人間が本能として持っている7つの感情の事で「礼紀・礼雲篇」では、喜、怒、哀、懼、愛、悪、欲、の感情のいいます。仏教では「喜・怒・哀・楽・愛・悪・欲」となってるようです。
*喜・・・心の歓楽で、すべての行動が自分の意志によってなされ、それが成功した時の喜び
*怒・・・心の煩悩。自分の意に反した状態、うまくいかない悩み。
*哀・・・心の痛切。ただ悲しいだけでなく,痛切な悲しみ。
*懼・・・心の煌恐。どうしたら良いかわからないほどの恐れ。
*愛・・・心の貧恋。独立したいという心の狭い愛情。
*悪・・・心の憎嫌。みにくい心。
*欲・・・心の思慕。物欲だけでなく欲しいと思う心そのものが、すでに欲であると戒めている。

七情を押さえ込むと、そこには博愛の精神が生まれてくると説く一方で、この七情を自我の赴くままに放置すれば、どれか一つの感情が心の中ではびこり、やがてはその感情の虜になって、自分自身を滅ぼすことにもなりかねない。憤りが強すぎれば「憤死」することもあり、悲しみが深過ぎれば、自殺も考えるようになる。このようにならないためには、七つの感情がいつもほどよくコントロールされていなければならない。まず七情を抑制する心を持つて乗り越える事。この七情を乗り越えたときに、初めて自分の心の中に調和が生じ、それが家庭の平和になり、社会の調和になり、国の平和、世界の平和へと広がっていく。自分で「調和」を出来なければ、心身の健康は望めないし、良い家庭も持てない、この七情の基本が出来ている人は、心身ともに幸せに充ち溢れる。

*五福(人生五つの幸福)
1、命の長いこと。 2、財力の豊かなこと。 3、無病息災。 4、徳を好むこと 5、天命を持って終わること。

範吟

素読・範吟 鈴木精成

伴奏

伴奏(2本)

伴奏(6本)